非上場株式は上場株式とは異なり、証券取引所を通じて自由に売却することができません。「手放したくても現金化が非常に難しい」という特質を持っています。
しかし、会社法では一定の条件を満たした場合に限り、株主が会社に対して株式の買い取りを求めることができる株式買取請求権を定めています。こちらの記事では、この権利を行使できる条件や具体的な手続きについて詳しく解説します。
会社法において、株式買取請求権は主に少数株主の保護を目的として設計されています。
非上場企業では、経営権を握る多数派株主の意向が強く反映されるため、経営方針に納得がいかない株主や投下した資本を回収したい少数株主が孤立してしまうリスクがあります。会社法は、株主としての地位を継続することが困難になったり、著しく不利益を被るような重大な事態が発生したりした場合に、投下資本を回収して退出する機会を法的に保障しています。
大前提として理解しておくべきなのは、株主が「急にお金が必要になった」「なんとなく株を手放したい」といった個人的な理由だけで、いつでも会社に買取を請求できるわけではないという点です。
会社側にも資金繰りや財産保持の都合があるため、自由な買取請求は原則として認められていません。株式買取請求権が行使できるのは、会社法が明示的に定める”特定の事由”が発生した場合に限定されます。法が定める権利発動の条件を満たしたときのみ、会社に対して強制力を持つ買取義務が生じることになります。
会社法第138条〜第140条等に基づき、譲渡制限株式を持つ株主が会社に第三者への譲渡の承認を求めた際、会社がこれを不承認とした場合に発生するケースです。
非上場株式の現金化において最も頻繁に利用される手法です。会社が「第三者に売ることは認めない」と判断したのであれば、その対価として会社自ら、あるいは指定した買取人がその株式を買い取る義務を負うという仕組みです。不承認通知から一定期間内に買取人を指定しなければならないなど、会社側にも厳しい義務が課されます。
会社法第116条や第797条などに定められている権利です。合併、分割、事業譲渡といった、会社の組織構造を根本から変える組織再編が行われる際、事前に反対の意思を示した株主は、会社に対して自分の持っている株式を公正な価格で買い取るよう請求できます。
自分の望まない形態に会社が変わってしまう際、株主としての地位を降りて適正な対価を得る権利を認めるもので、少数株主の利益を守るための重要な制度です。
会社法第179条等に基づく特別支配株主による株式売渡請求や株式併合などによって、少数株主が強制的に追い出される(スクイーズアウト)場合です。
株主は自身の意思にかかわらず株を失うことになりますが、会社から提示された対価の額が不当に低い場合には、裁判所に対して売買価格決定の申立てを行うことで、適正な価格の買取を求めることができます。強制的な権利奪取の裏返しとして、価格面での司法救済が用意されています。
会社法第192条に基づき、会社が100株を1単元とするといった単元株制度を導入している場合に認められる権利です。1単元に満たない端数の株式は、市場での売却ができず議決権もないなどの制約があるため、株主はいつでも会社に対してその買い取りを請求することができます。これは上述のケースとは異なり、特別な組織変更などを待たずに行使できるのが特徴です。
譲渡制限株式の買取請求は、一般的に以下のステップで進みます。
これらのプロセスは期間が厳密に定められており、会社側が手続きを1日でも怠ると”会社が譲渡を承認したとみなされる”など、結果が大きく変わります。
合併や事業譲渡に伴う反対株主の買取請求は、厳格なスケジュール管理が求められます。
事前の通知を忘れたり、総会での反対の意思表示を怠ったりすると、その後の買取請求権は発生しません。
株式買取請求権を行使した後、最初に行うべきは会社との協議です。双方が納得できる価格を話し合いで決めます。
しかし、会社側はできるだけ安く買い取りたいと考え、株主側は本来の企業価値に基づいた高い価格を主張するため、ここでの交渉は難航することがほとんどです。非上場株式には定まった価格がないため、決算書や将来の収益予測などを持ち出し、論理的に価格の妥当性を主張する必要があります。協議期間は法的に定められており、通常は買取請求や買取通知から20日以内となります。
もし当事者間での協議がまとまらなかった場合、会社法に基づき、裁判所に対して価格決定の申立てを行うことができます。これにより、売買価格の決定権は第三者機関である裁判所に移ります。
この申立ては、請求から一定期間内(原則として効力発生日から30日以内など)に行わなければならないという厳しい期限があります。この期限を逃すと、会社側が提示した金額や供託した金額で価格が確定してしまう恐れがあるため、交渉の進捗を見極めた迅速な判断が求められます。
裁判所は、当事者の主張だけを聞いて決めるのではなく、通常、公認会計士や税理士などの専門家を鑑定人として選任します。
鑑定人は、会社の資産状況、過去の収益性、将来のキャッシュフロー、類似企業の株価指標などを多角的に分析し、客観的な株価を算出します。具体的には、DCF法(将来収益を割り引く手法)、純資産価額方式、類似業種比準方式などが用いられます。裁判所はこの鑑定結果を最大限尊重しつつ、会社法上の公正な価格を決定します。このプロセスにより、多数派株主による恣意的な買い叩きを防ぎ、適正な資本回収を目指すことが可能となります。
A:会社法上の要件と手続きを完全に満たしている場合、会社が買取義務そのものを拒否することはできません。法律によって会社に強制的に買取を命じる制度だからです。
ただし、株主側の手続きに不備があったり、提出期限を1日でも過ぎていたりする場合、会社側から「請求は無効である」として法的に拒否される可能性があります。権利を行使する側には、法に則った正確な事務処理が求められます。
A:法が定める条件を一つでも満たさない場合は行使できません。
例えば組織再編時であれば、「株主総会の前に反対通知を出していなかった」「総会で賛成票を投じてしまった」「買取請求の期間内に書類が会社に届かなかった」といったミスがある場合です。また、単なる経営方針への不満や人間関係の悪化など、会社法が認める買取請求の対象事由に該当しない個人的な理由での請求も認められません。
A:はい、非常に短く厳格な期限が設定されています。
例えば、譲渡制限株式の買取における価格決定の申立ては、会社からの通知または一定の期間満了から20日以内に行う必要があります。組織再編の場合も、効力発生日から30日以内など、事案ごとに期限が異なります。この期限を経過すると、会社側が一方的に算出した提示額などを受け入れるしかなくなってしまうリスクがあるため、常にカレンダーを意識したスケジュール管理が必要です。
会社法は少数株主を保護するために株式買取請求権を定めていますが、その行使条件は極めて限定的であり、手続きや期限のルールは非常に厳格です。法律の専門知識がない個人が、正確に手続きをこなしながら、経験豊富な会社側の顧問弁護士と対等に交渉することは困難を極めます。
一度手続きを間違えたり期限を逃したりすれば、本来得られるはずだった多額の対価を失いかねません。会社法に基づく非上場株式の買取請求を検討する際は、初期段階から企業法務や非上場株トラブルに精通した弁護士や税理士などの専門家に相談し、万全の体制で権利を行使することをおすすめします。
非上場株式の取引は、上場株と違い法的手続きや税務対応が複雑なため、専門家への相談が不可欠です。
ここでは、弁護士・税理士・M&A仲介会社の中から、目的別に信頼できる3つの相談先を厳選してご紹介します。
一部の株式買取業者は、無登録での営業や詐欺的な手法、非弁行為(弁護士でない者が弁護士の業務を行うこと)など違法性が問題視されており、大阪高等裁判所2024年7月12日判決では株式買取業者の行為が非弁行為にあたると判断された判例もあります。また、高額買取をうたって実際は買い叩くケースもあるため、一定のリスクがあることを理解したうえで相談することが重要です。
株式買取に詳しく、M&Aやファイナンス理論の知見があることが重要です。対応実績と交渉力を事前に確認しましょう。
資産税・自社株評価に強い税理士法人か確認。M&Aや法務に対応できる他士業と連携しているかどうかも大切です。
業種や規模に合った買い手ネットワークを持っているかを見極めましょう。成約するまでのスピードもポイントです。