将来の事業承継や相続に向けて自社株対策を進めている中小企業経営者や後継者にとって、見逃せない重要な動向があります。2026年4月、日本経済新聞などにより「国税庁が非上場株式の相続評価ルールの見直しに着手した」と報じられました。
本記事では、現在進行中の国税庁の議論内容や今後のスケジュール、なぜ評価ルールが変更されるのか、そして経営者が今取るべき対策について詳しく解説します。
※本記事の参考: 日本経済新聞「非上場株の相続評価見直し、国税庁が過度な節税抑止 一部は増税に」(2026年4月14日配信)
国税庁は、長年運用されてきた非上場株式(同族株主が保有する株式)の評価手法を抜本的に見直す方針を固めました。現在の評価ルールのベースは1964年に設定されたものであり、現代の複雑な企業形態や資本政策に十分対応できていないという指摘がありました。今回の改正の主な狙いは、現行ルールの隙を突いた過度な株価引き下げ策に歯止めをかけることです。
国税庁は2026年4月中に有識者による検討会を設置し、具体的な評価手法の議論を開始しています。年内には改正の方向性をまとめ、2027年度の税制改正に盛り込むことを目指しています。
実際の運用開始スケジュールとしては周知期間を考慮し、早ければ、2028年1月以降の相続や贈与から適用される見込みです。約60年ぶりの抜本的な大改正となる可能性があるため、今後の議論の行方には注意を払う必要があります。
見直しの最大の理由は、一部の富裕層や企業オーナーによる過度な節税スキームへの対応です。現行のルールでは、相続の直前に新株を発行したり、不自然な配当を行ったりすることで、帳簿上の株価を意図的に引き下げることが可能なケースがありました。
実際に、過去10年間で国税当局が「評価額が著しく不適当」として例外規定(総則6項)を発動し、再評価を行った27件のうち、半数以上の14件が非上場株式に関するものでした。こうした後出しの否認ではなく、ルールそのものを厳格化することで、不公平な課税逃れを未然に防ぐ狙いがあります。
もう一つの理由は、現行の評価額と実態との間に大きな乖離が生じている点です。例えば、莫大な利益や資産を持ちながらも、特定の計算式を逆手に取ることで、株価を極端に低く算出できてしまう現状があります。これは、地道に本業で利益を上げている一般的な中小企業との間で税負担の不公平感を生む原因となっています。
国税庁は、デジタル化やグローバル化が進む現代のビジネス実態に即した、より感度の高い評価基準を確立することで、公平な課税環境を整えようとしています。
類似業種比準方式は、上場企業の株価や配当、利益、純資産を基準に自社株を評価する方法ですが、今回の見直しでは比較対象となる数値の取り扱いや参照する業種区分の細分化が検討される見通しです。これまでは、特定の指標だけを極端に操作して評価額を下げる手法が通用していましたが、今後は複数の指標をより多角的に組み合わせ、上場企業の株価変動との連動性を高めることで、意図的な操作を困難にする仕組みが予想されます。
会社の資産から負債を引いて評価する純資産価額方式についても、資産の評価基準が厳格化される可能性があります。特に、現金を不動産に換えて評価額を下げる手法などに対し、取得価格と相続税評価額の差をどう扱うかが焦点となります。マンションの相続税評価が見直されたのと同様に、非上場株式の評価においても、時価に近い実態を反映させるための新たな補正係数の導入などが議論される可能性があります。
少数株主が適用する配当還元方式は、配当金額をベースに算出するため、一般的に評価額が低く抑えられます。今回の見直しでは、この方式を適用できる範囲の厳格化や長期間無配である場合、あるいは極端に低い配当を維持している場合などの評価の在り方が検討されるでしょう。単に持ち株比率だけで判断するのではなく、実質的な支配権や影響力を考慮した、より実態に即した適用基準への変更が議論の遡上に載ると考えられます。
有識者会議では、主に「資産」「利益」「配当」「取引の実態」という4つの観点から多角的に議論が進められます。特に注目されるのは、これら複数の評価方式をどのように組み合わせ、どのような比重で計算に組み込むかという点です。特定の方式に偏ることなく、企業の経済的な価値をバランスよく反映できる算定モデルの構築が目指されます。これにより、一つの指標を操作するだけでは株価が下がらないような、より精緻な仕組みへと移行していくことが見込まれます。
今回のルール改正で影響を強く受けるのは、主に特定の株価引き下げ策を積極的に行っている、比較的大規模な非上場企業です。例えば、多額の利益が出ているにもかかわらず、複雑な組織再編や不自然なタイミングでの新株発行を繰り返して株価を低く抑えているケースなどは、新しい評価基準によって評価額が跳ね上がる可能性が高いでしょう。
一方で、事業実態に見合った形で経営を続け、利益を積み上げている一般的な中小企業や過度な節税スキームを用いていない小規模企業への影響は、現段階では限定的であると予想されています。
現在進めている自社株対策が新ルールの議論の対象となっていないか、速やかに再検証する必要があります。特に、実態の伴わない組織再編や不動産への資産変換などは、今後厳しくチェックされるリスクがあります。今の対策が将来的に租税回避とみなされる可能性がないか、最新の動向に照らし合わせて確認しましょう。
もし現行ルールのほうが有利であると判断される場合、新ルールが施行される(2028年想定)よりも前に、生前贈与を前倒しで実行することを検討すべきかもしれません。ただし、贈与税の負担との兼ね合いや将来の相続税額の変化を慎重に見極める必要があります。
評価ルールが厳格化され株価が上がれば、納税額も増えます。そこで、改めて事業承継税制(納税猶予制度)の活用を検討してください。特例承継計画の提出期限などスケジュール管理は厳しいですが、税金の支払いを猶予・免除できるこの制度は、評価増への有力な対抗策となります。制度利用のメリットとデメリットを専門家と協議しましょう。
A. 贈与税にも影響します。
非上場株式の評価ルールは、相続税を計算する時も贈与税を計算する時も共通して使用されます。そのため、今後のルール改正によって自社株の評価額が引き上げられた場合、相続の時だけでなく、後継者に生前贈与する際にかかる贈与税の負担も増す可能性が高いです。
A. 一般的な小規模企業への影響は限定的と予想されますが、対策の内容によっては注意が必要です。
報道によると、今回の見直しによって評価額が上がり増税になるとみられているのは、主に比較的大規模な企業です。純粋に事業を継続している小規模企業への影響は少ないと考えられます。ただし、会社の規模に関わらず過度な節税とみなされるような不自然な株価対策を行っている場合は、厳しくチェックされる可能性があります。
A. 非常に慎重な判断が必要です。実行前に必ず最新の税制リスクを専門家と協議してください。
国税当局は現在、相続前に新株発行や配当などを用いて意図的に株の評価額を下げる手法を税回避として厳しくマークしています。実際に、過去10年間で例外規定(総則6項)を用いて国税側が再評価を行った事案の半数以上が非上場株に関するものでした。実態の伴わない表面的な対策は、後から否認されて巨額の追徴課税を受けるリスクが高まっています。
A. 事業承継税制の活用など、税金を現金で一括納付しなくて済む制度の検討が必要になります。
自社株は現金と違って手元にお金が入るわけではないため、多額の相続税・贈与税が発生すると後継者が支払えなくなるリスクがあります。こうした事態を防ぐため、一定の要件を満たせば非上場株の贈与税・相続税の納税が猶予される事業承継税制という国の特例制度が存在します。今後はこうした制度の活用がより重要視されるでしょう。
A. 基本的に、新しい評価ルールが過去に遡って適用されることはありません。
税制改正や新しいルールの適用は、そのルールが施行された日以降に発生した相続や贈与に対して行われるのが原則です。そのため「新ルールができたから」という理由だけで、過去に完了した贈与の税金が追加で徴収されることは基本的にはありません。
ただし、過去に行った株価対策が現行のルールに照らし合わせても過度な租税回避と判断されるようなケース(実態の伴わない新株発行や不自然な組織再編など)においては、新ルールの施行を待たずとも通常の税務調査で例外規定(総則6項など)が適用され、追徴課税を受けるリスクがあります。
A. 必ずしも間違っているとは限りません。まずは顧問税理士へご相談ください。
税理士は多くの場合、現在の合法的なルールの中で、クライアントの税負担を最小限に抑える最善の策を提案しています。今回起きている問題は、国税庁がそのルールそのものを厳格化しようとしている点にあります。
まずは顧問税理士に「今回の見直しに関するニュースを見たが、現在進めている自社の株価対策に影響はあるか?」と尋ねてみてください。もし明確な回答が得られなかったり、今後の対応に不安が残ったりする場合は、事業承継や最新の税制に特化した別の専門家にセカンドオピニオンを求めてみるのも有効な手段です。
非上場株式の評価ルール変更は、事業承継の成否を分ける極めて重要なトピックです。過去のスキームが租税回避として否認されるリスクが高まっている今、独自の判断や古い知識のままで対策を継続するのはリスクを伴います。
最新の国税庁の議論を正確にキャッチアップしている税理士や専門家に相談し、まずは自社の現在の株価と見直し後の想定株価のシミュレーションを行うことから始めましょう。
非上場株式の取引は、上場株と違い法的手続きや税務対応が複雑なため、専門家への相談が不可欠です。
ここでは、弁護士・税理士・M&A仲介会社の中から、目的別に信頼できる3つの相談先を厳選してご紹介します。
一部の株式買取業者は、無登録での営業や詐欺的な手法、非弁行為(弁護士でない者が弁護士の業務を行うこと)など違法性が問題視されており、大阪高等裁判所2024年7月12日判決では株式買取業者の行為が非弁行為にあたると判断された判例もあります。また、高額買取をうたって実際は買い叩くケースもあるため、一定のリスクがあることを理解したうえで相談することが重要です。
株式買取に詳しく、M&Aやファイナンス理論の知見があることが重要です。対応実績と交渉力を事前に確認しましょう。
資産税・自社株評価に強い税理士法人か確認。M&Aや法務に対応できる他士業と連携しているかどうかも大切です。
業種や規模に合った買い手ネットワークを持っているかを見極めましょう。成約するまでのスピードもポイントです。