非上場株式・少数株式を売却する際、「提示された買取価格が安いのでは?」と感じる方もいるでしょう。そのように感じる背景には、上場株式とは異なり市場価格が存在しないこと、市場価格が存在しなからこそ適正価格の根拠が曖昧になりやすいことなどがあります。
会社そのものや株式を第三者へ譲渡・売却する場面では、売り手と買い手の双方が合意できる適正な取引価格を導き出す必要があります。しかし、非上場株式には市場で日々変動する客観的な価格が存在しません。そのため、株価算定というプロセスを通じて企業価値を客観的な数値として算出することが不可欠となります。
価値を可視化することで、売買契約を締結する際の説得力ある根拠を明示すること、これが非上場株式の株価算定が必要となる第一の理由です。
後継者へ経営権を移譲する生前贈与や経営者の死亡に伴う相続が発生した際には、国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて税務上の評価を行う必要があります。税額の算出基準となる「相続税評価額」を正確に導き出すためには、適切に株価を算定しなければなりません。
この評価額は税務申告の根拠となる極めて重要な数値であるため、法令や通達を正しく理解した上で、厳密に算出することが求められます。
退職や事業承継を一つの節目として、会社が株主から自社株を買い取って金庫株として取得するケースがあります。この際、もし適正な価格を定めずに取引を進めてしまうと、本来の時価との差額について税務署から指摘を受け、みなし配当課税など予期せぬ税負担を強いられる可能性があります。
このようなリスクを回避するためには、事前の株価算定を通じて適正価格を明確にしておく工程が不可欠です。
原則的評価方式とは、会社の経営権を保持しているオーナー社長やその親族が株式を取得する際に適用される方式です。
同方式では、まず会社の総資産や従業員数、取引金額などの規模をもとに、大会社・中会社・小会社のいずれかに分類。その上で、会社の実態を厳格に反映した方法を用いて株価を算定する流れとなります。
配当還元方式とは、経営に関与せず、主に配当を受け取ることを目的としている少数株主(同族株主以外の株主)に対して適用される特例的な方式です。
同方式では、その株式を保有することで受け取れる年間の配当金額を10%で割り戻して株価を算出します。企業全体の価値を重視する原則的評価方式と比較すると株価が低く算出される傾向があり、実際、元本ベースで1株あたり50円程度の評価額となるケースも珍しくありません。
非上場株式の株価算定には、「類似業種比準方式」「純資産価額方式」「併用方式(Lの割合)」の3つの評価方式があります。
類似業種比準方式とは、評価対象の会社と業種や規模が似通った上場企業の株価をもとに株価を算出する手法です。具体的には、1株あたりの「配当金額」「利益金額」「純資産額(簿価)」の3つの要素を上場企業と比較・比準して数値を導き出します。
後述する純資産価額方式と比較して、類似業種比準方式は株価が低く抑えられやすい傾向にあるため、相続税や贈与税の負担を軽減する自社株対策の一環として戦略的に活用されるケースも多く見られます。
一方で、直近3期の業績や比較上場企業の株価水準に数値が左右されやすいという側面には留意が必要です。
純資産価額方式とは、現時点で会社が解散したと仮定し、すべての総資産を相続税評価額に洗い替えた上で総負債を差し引いて算出する手法です。会社が持つ実質的な純資産の時価を発行済株式数で割ることで1株あたりの価額を導き出します。
この方式の場合、含み益のある多くの不動産を所有している会社や長年にわたって内部留保を積み上げてきた会社では、株価が高額に算定される傾向があります。株価が高額に評価された場合、相続や贈与の場面では税負担が重くなる可能性がある点に注意が必要です。
会社規模が中会社に区分された場合、類似業種比準方式と純資産価額方式を「Lの割合」と呼ばれる比率で組み合わせて株価を算定します。中会社はさらに「大・中・小」の3段階に細分化され、それぞれの規模に応じて独自の「Lの割合」が設定されているため、計算構造は必然的に複雑となります。
適用される比率が少し変わるだけで最終的な株価が大きく変動することになるため、自社が該当する規模区分にについて正しく把握しておくことが大切です。
税理士などの専門家が実務で株価を算定する際には、一定の手順に沿って評価方式を絞り込んでいく流れとなります。以下、その流れを4つのステップに分けて見ていきましょう。
まず最初に行うべき判断は、株式を取得する人物が「同族株主グループ(経営者一族など)」に属するかどうかです。
同族株主グループに該当する場合には原則的評価方式が適用され、それ以外の少数株主には特例的評価方式(配当還元方式)が適用されます。この区分によって適用される計算ルールが根本から異なるため、評価プロセス全体における非常に重要な出発点となります。
原則的評価方式が適用される場合であっても、会社の性質によっては使用できる評価方式に制限がかかることがあります。たとえば、開業前や休業中の会社、あるいは総資産に占める土地や株式等の割合が一定以上である会社(土地保有特定会社、株式等保有特定会社など)は「特定の評価会社」として扱われます。
これらの会社には類似業種比準方式を適用できず、原則として純資産価額方式が強制的に適用される仕組みです。このチェックを怠ってしまうと、評価方式の選定を誤って税務上の計算結果が大きく食い違ってしまうおそれがあります。
特定の評価会社に該当しない場合には、次に会社の規模区分を判定します。具体的には、直前期末時点での「売上高」「総資産価額」「従業員数」という3つの要素を国税庁が定める基準に照らし合わせ、大会社・中会社・小会社のいずれかに分類します。
この規模区分によって、類似業種比準方式、併用方式、純資産価額方式のうち、どれを原則として適用すべきかが決定します。
これまでのステップで得た判定結果を総合し、最終的にどの計算式で株価を算定するかを確定させます。具体的には、大会社であれば類似業種比準方式を100%採用し、小会社であれば純資産価額方式を100%採用します。また、中会社であれば、先ほど解説した「Lの割合」を用いて両方式を併用する方針が定まります。
STEP1からSTEP3までの判定を正確に積み重ねて初めて、税務上の適正な株価算定が可能となります。各ステップでのわずかな認識のズレが最終的な株価は大きく変動してしまうため、専門家と相談しながら着実に進めていくことが肝要です。
非上場株式には、上場株式にはない特有のハードルが存在します。それは「すぐに売却して現金化することが難しい」という流動性の低さです。このリスクは株価の評価にも影響を与える重要な論点となります。
M&Aや第三者への売却といった実務の現場では、算定した株価をそのまま取引価格として採用するケースは多くありません。その理由は、非上場株式は市場で日々売買される上場株式と異なり、買い手は流動性の低さといデメリットを背負わなければならないからです。
このデメリットを相殺するため、理論上で算定された価格に対して一定の割合(20〜30%程度)を差し引く「流動性ディスカウント(市場性調整)」を行うことが、実務上の慣行として取り入れられています。買い手にとっての「換金のしにくさ」を価格に反映させることで、買い手と売り手のスムーズな合意形成を促すことが狙いです。
親族間の贈与や相続、会社による自社株買い、そして外部の買い手との売却交渉など、取引の場面がどのように異なっても、共通して求められるのが「客観的な根拠に基づく適正な時価」の提示です。
適正な時価を明確にしておかないまま取引を進めると、売買価格の妥当性をめぐって当事者間で争いが生じたり、税務署から価格の適正性について指摘を受けたりするリスクがあるので要注意。株価算定は、単に取引価格を決めるだけでなく、将来的なトラブルを未然に防ぐための重要な防衛策としての意味も持ちあわせています。
理論上は、国税庁の財産評価基本通達に沿って計算することが可能です。ただし、会社の規模区分の判定、土地・建物の時価評価、非経常的利益の控除処理など、実務上の判断が求められる場面が多いため、専門知識のない方が正確に株価を算定することは容易ではありません。
計算を誤った場合、後から「みなし贈与」として贈与税とペナルティが課されるリスクもあるため、最初から税理士に算定を依頼したほうが安全です。
類似業種比準方式の算定要素となる数値を調整することが、株価を引き下げる対策になります。主な手法としては、配当金額の引き下げや役員退職金の支給による利益の圧縮、含み損のある不動産の取得などです。
なおこれらの対策は、中長期的な視点での綿密な事前計画と客観的な税務上の根拠が不可欠です。一時的な操作として実施した場合、税務署から指摘を受けるリスクもあるため、必ず税理士などの専門家へ相談した上で実行の可否を検討することが重要です。
純資産価額方式に比べると、多くの場合、類似業種比準方式で算定した株価の方が低くります。そのため、自社株対策の基本戦略として、会社規模などにより可能な限り類似業種比準方式の適用を目指すケースが多く見られます。
ただし、自社にとってどちらの手法が有利に働くかを一概に断定することはできません。個別に詳細な試算を行い、専門家のアドバイスを受けながら慎重に判断することが大切です。
非上場株式の評価額は、株主の区分や会社の資産状況、さらには複雑な税制やその時々の市場動向によって変動します。そのため、取引価格の妥当性を自分だけで判断することは非常に困難です。不適切な価格での取引を行ったり、相続発生直前に慌てて場当たり的な対策を講じたりすると、想定外の税負担や関係者間での思わぬトラブルに発展するリスクがあるので注意しましょう。
自社に不利にならないよう適切な評価額を算定するためには、まず専門家の無料相談などを活用し、自社の株価が概算を客観的に把握することが大切です。必要に応じて株価算定書の作成を依頼するなど、専門家のサポートを受けながら計画的に準備を進めていきましょう。
以下のページでは、非上場株式売却の状況・悩み別に相談できる事務所や会社を紹介しています。相談先選びの材料としてご活用ください。
非上場株式の取引は、上場株と違い法的手続きや税務対応が複雑なため、専門家への相談が不可欠です。
ここでは、弁護士・税理士・M&A仲介会社の中から、目的別に信頼できる3つの相談先を厳選してご紹介します。
一部の株式買取業者は、無登録での営業や詐欺的な手法、非弁行為(弁護士でない者が弁護士の業務を行うこと)など違法性が問題視されており、大阪高等裁判所2024年7月12日判決では株式買取業者の行為が非弁行為にあたると判断された判例もあります。また、高額買取をうたって実際は買い叩くケースもあるため、一定のリスクがあることを理解したうえで相談することが重要です。
株式買取に詳しく、M&Aやファイナンス理論の知見があることが重要です。対応実績と交渉力を事前に確認しましょう。
資産税・自社株評価に強い税理士法人か確認。M&Aや法務に対応できる他士業と連携しているかどうかも大切です。
業種や規模に合った買い手ネットワークを持っているかを見極めましょう。成約するまでのスピードもポイントです。