非上場株式の売却に悩む少数株主に対し、「あなたの株を高値で買い取ります」とアプローチしてくる専門の買取業者(ファンド等)が存在します。しかし、こうした業者を安易に利用することには、重大な法的リスクが潜んでいる可能性があります。
令和6年7月12日、大阪高等裁判所において、特定の買取業者の事業手法が弁護士法違反(非弁行為)にあたり、株主と業者間の売買契約は無効であるとする画期的な判決が下されました。
本記事では、この判決内容に基づき、なぜ当該業者の手法が違法と判断されたのか、その背景と少数株主・発行会社が直面するリスク、そして正しい対処法について解説します。
今回実務上注目を集めているのは、大阪高等裁判所における令和6年(ネ)第149号の判決です。この裁判では、買取業者の事業目的が純粋な株式投資ではなく、法的な紛争に介入して利益を得ることにあると判断されました。
裁判所は、「本件事業の業として行った本件売買契約の締結は、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあるとは認められず、本件売買契約は弁護士法73条に違反して無効である」と明快に判示しました。弁護士法73条は、他人の権利を譲り受けて訴訟等を通じて利益を得る行為を禁じています。
この判決により、買取業者が行う「株式を安く買い取り、会社に対して法的手続きをちらつかせて高値で買い取らせる」という事業手法が、日本の法律に抵触し、契約そのものが無効となり得るリスクがあること、が明確に示されました。
そもそも弁護士法では、弁護士資格を持たない者が利益を得る目的で他人の法律事件に介入すること(非弁行為)を厳しく禁じています。これは、無資格者が介入することで当事者の正当な利益が損なわれたり、法制度の公正さが乱されたりするのを防ぐためです。
一般的な株式投資であれば、配当の受け取りや将来の企業成長に伴う価値向上を目的とします。しかし、今回の判決で指摘された業者の目的は、会社経営への参加や長期的な保有ではなく、当初から安く買って高く売るという差額利益の獲得だけにありました。
つまり、株式そのものの保有が目的ではなく、会社との対立状態を利用した利得行為であるとみなされたのです。このような手法は、単なる投資活動の範囲を超え、他人の紛争に介入して利益を得ることを目的としていると判断されました。
この業者のビジネスモデルは、株式を取得した後に発行会社に対して買取請求を行い、協議がまとまらなければ裁判所への価格決定申立てなどの法的手続きに打って出ることをあらかじめ前提としていました。
自ら当事者となって法的な権利を強行に行使し、会社から金銭を引き出すという手法は、まさに弁護士法が禁じている「他人の権利を譲り受けての訴訟遂行」に該当します。他人の法的紛争に介入し、訴訟等を前提として利益を得ようとする姿勢が、違法性を問われる大きな根拠となりました。
判決における重大な指摘の一つは、業者が少数株主の知識不足や換金ニーズを利用し、本来であれば株主に帰属すべき企業価値を不当に取得しているという点です。これは法の趣旨をすり抜ける潜脱行為に当たるとされました。
弁護士資格のない者が自らの利益のために他人の権利関係に介入し、本来の権利者が受け取るべき利益を搾取するような行為は、弁護士法および司法制度の根幹を揺るがすものとして、裁判所は非常に厳しい姿勢を示しました。
少数株主にとっての最大のリスクは、正当な対価を受け取れないことです。今回の判決のケースでは、業者は実質的な株価が約356万円であることを認識しながら、株主にはそれを告げず、独自の低い価格(1株120万円)で買い取っていたことが指摘されています。
さらに、業者の手法が弁護士法違反と判断されれば売買契約そのものが無効とみなされるため、受け取った代金の返還義務が生じたり、株式の帰属を巡る複雑な法的トラブルに巻き込まれたりする恐れがあります。
発行会社にとっても、一部の強引な買取業者の介入は大きな脅威です。突然届く譲渡承認請求や不当な買い取り圧力、さらには訴訟手続きの乱発によって、健全な会社経営が阻害されるリスクがあります。
しかし、今回の高裁判決は発行会社側にとっての盾となり得ます。不当な業者の介入を「弁護士法違反による無効」として退けるための法理が示されたため、今後は適正な手続きを守り、会社を不当な要求から法的に守るための有力な根拠の一つとなります。
大阪高裁の判断は、非上場株式のトラブルにおいて無資格の業者を介在させることへの強い警鐘と言えます。
少数株主が本来の企業価値に基づく適正な価格で現金化するためには、また、発行会社が不当な介入から会社を守るためには、企業法務や会社法に精通した弁護士に直接依頼することが非常に有効な選択肢です。安易に業者と契約を結んでしまう前に、まずは法律の専門家に相談し、適法かつ公平な解決を目指しましょう。
非上場株式の取引は、上場株と違い法的手続きや税務対応が複雑なため、専門家への相談が不可欠です。
ここでは、弁護士・税理士・M&A仲介会社の中から、目的別に信頼できる3つの相談先を厳選してご紹介します。
一部の株式買取業者は、無登録での営業や詐欺的な手法、非弁行為(弁護士でない者が弁護士の業務を行うこと)など違法性が問題視されており、大阪高等裁判所2024年7月12日判決では株式買取業者の行為が非弁行為にあたると判断された判例もあります。また、高額買取をうたって実際は買い叩くケースもあるため、一定のリスクがあることを理解したうえで相談することが重要です。
株式買取に詳しく、M&Aやファイナンス理論の知見があることが重要です。対応実績と交渉力を事前に確認しましょう。
資産税・自社株評価に強い税理士法人か確認。M&Aや法務に対応できる他士業と連携しているかどうかも大切です。
業種や規模に合った買い手ネットワークを持っているかを見極めましょう。成約するまでのスピードもポイントです。