非上場会社の株式を第三者に譲渡しようとしても、会社が定款を根拠に承認を拒むケースは少なくありません。会社の意向が強く反映されるため、株主としては理不尽に感じる場面もあります。
本記事では、定款に基づく譲渡制限の基本的な仕組みを整理したうえで、正当な理由のない拒否への対応方法や、会社が買取義務を負う場合の価格決定までを解説します。
非上場会社の多くは、外部への株式流出を防ぐために「譲渡制限」を定款で定めています。これは、株主が第三者に株式を譲渡する際、会社の承認を必要とする仕組みです。まずは、この譲渡制限がどのように定められ、どの範囲で効力を持つのかを確認しておきましょう。
譲渡制限株式とは、定款(会社の基本規則)に「当会社の株式を譲渡により取得するには会社の承認を要する」と定められた株式を指します。会社法では、発行する株式の全部または一部にこの承認要件を設けることができ、承認機関は会社の機関設計に応じて株主総会または取締役会とするのが一般的です。
取締役会設置会社では、取締役会が承認の可否を決定します。会社は原則として請求日から2週間以内に決定内容を通知し、期限内に通知がなければ承認されたものとみなされます。定款の文言や手続期限は会社ごとに異なるため、売却を検討する際は自社の定款内容を事前に確認しておくことが重要です。
譲渡制限は、発行会社が株主構成を一定の範囲に保つことで経営の安定を図り、会社の機密や経営権が外部へ流出するのを防ぐために設けられた制度です。特に同族会社や少人数の会社では、株主の出入りを制限することで、敵対的または非協力的な人物が株主となり経営に混乱をもたらす事態を防いでいます。
一方で、株主が出資を回収する機会を確保するため、会社が承認を拒んだ場合には、会社自身が買い取るか、第三者を指定して買い取らせる仕組みが設けられています。売買価格は当事者の協議で決めるのが原則であり、合意に至らない場合は裁判所が価格を決定します。株主の処分権と会社の安定性を両立させるための制度設計といえます。
会社が譲渡を承認しない場合でも、その判断に正当な理由がなければ、株主には反論の余地があります。譲渡制限は会社の安定を守る仕組みである一方で、株主の財産権を過度に制限するものではないためです。ここでは、承認を拒否された際に取り得る主な対応手段を整理します。
まず行うべきは、会社法に基づく正式な譲渡承認請求です。会社は原則として、株主総会または取締役会で承認の可否を決定し、請求日から2週間以内に結果を通知しなければなりません。期限内に通知がない場合は承認されたものとみなされるため、無回答が続く際には承認擬制を主張することができます。
実務上で特に重要なのは、会社が期限内に承認手続きを行わなかった場合に「承認擬制(期限経過で自動的に承認とみなす仕組み)」が成立するかどうかです。この主張を裏づけるには、承認請求の送付日と会社からの通知日を正確に証明することが欠かせません。
譲渡承認の請求は、内容証明郵便など送付日と到達日を記録に残せる手段で行うのが望ましいでしょう。承認の可否通知(2週間以内)や買取通知・供託証明書の交付(40日または10日)など、法定期限を把握しておくことも大切です。期限を過ぎた場合は、承認されたものとみなされる可能性があるため注意が必要です。
なお、非上場会社では少数ですが株券を発行している場合もあり、その際は株主にも交付日から1週間以内に株券を供託する義務が生じます。この手続きを怠ると、売買契約を解除されるおそれがあります。
会社が譲渡を承認しない場合でも、株主の権利を守るために、会社自身が株式を買い取るか、第三者を指定して買い取らせる仕組みが設けられています。これを「会社による買取義務」と呼びます。ここでは、その買取義務がどのように発生し、価格がどのように決まるのかを解説します。
会社が譲渡を承認しないと決定した場合、会社法に基づき、会社自身が株式を買い取るか、他の株主または第三者を指定して買い取らせるか、いずれかの方法で対応しなければなりません。
会社が自ら買い取る際は、株主総会の特別決議によって株式の種類と数を定めます。指定買取人を利用する場合は、取締役会設置会社であれば取締役会、非設置会社であれば株主総会の決議によって指定します。
この議決では、承認請求者は特別利害関係人(議決に直接的な利害を持つため、投票権を行使できない立場)とされる点に注意が必要です。なお、会社が清算手続中で自己株式を取得できない場合は、指定買取人による買取を行うか、要件を満たさない場合には承認擬制の扱いとなるケースもあります。いずれの場合も、会社側には適切な機関決議を経たうえで、期限内に通知・供託を実施する義務が課されています。
株式の売買価格は、まず会社と株主の協議によって定めるのが原則です。ただし、会社(または指定買取人)から買い取り通知を受けた日から20日以内であれば、株主は裁判所に「株式売買価格決定」を申し立てることができます。
裁判所が価格を定めた場合、その額が正式な売買価格となります。申立てが行われないときは、供託額として「1株当たり純資産額」×対象株式数を基準とした特則が適用され、この金額はあくまで暫定的な基準にすぎません。最終的な価格は、裁判所の判断または当事者間の合意で確定します。
会社や指定買取人が供託額を算出する際の「1株当たり純資産額」は、法務省令に定められた方法に基づいて計算。会社には供託証明書を期限内に交付する義務があります。こうした仕組みにより、会社が不当に低い価格を提示したり、買い取りを引き延ばしたりする事態を防ぎ、株主の利益を守るバランスが保たれています。

株式の譲渡制限は会社の支配構造を維持するための制度ですが、実務では、制度が経営陣や支配株主の都合で恣意的に運用されるケースが少なくありません。
会社が株式譲渡の承認をしない場合には、会社または指定買取人が公正な価格で株式を買い取る義務を負います。 なお、株式の譲渡承認の拒否に正当な理由がない場合は、会社法第144条に基づき、裁判所に株式売買価格決定申立裁判の提起をすることができます。
実務では、株式の譲渡承認拒否理由の正当性や、株式売買価格の算定をめぐり紛争化することが多くあります。早期に経験のある弁護士が関与することで、会社側との交渉や裁判対応の方針を整理し、適切な解決手段を選択できます。
土屋 勝裕氏のプロフィール
弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。1999年弁護士登録(東京弁護士会26775)、1999~2005年長島・大野・常松法律事務所、2006年弁護士法人キャスト糸賀、2010年上海市世民律師事務所、2011年大成律師事務所上海事務所、2012年法律事務所開設。
株式譲渡制限は、会社の安定経営を守るための仕組みですが、会社が無制限に拒否できるものではありません。会社が承認しないと決めたなら、会社自身の買い取りまたは指定買取人による買い取りという法定の対応が義務づけられています。
株式譲渡を検討している方は、拒否が定款と会社法に照らして適法か、通知期限の徒過や供託の欠落がないか、会社が買取義務を適切に履行しているかを確認してください。必要に応じて弁護士などの専門家に相談することが大切です。
法律が絡む複雑な対応・手続きが伴うからこそ、その領域を得意とする事務所・会社の手を借りる選択肢もあります。
株主が置かれている状況や抱えている悩みによって、適切な相談先は変わってきますので、相談先ごとの違いを把握しておきましょう。
以下のページでは、株主の置かれている状況・悩み別におすすめの相談先(事務所・会社)を紹介していますので、参考にしてください。
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ここでは、弁護士・税理士・M&A仲介会社の中から、目的別に信頼できる3つの相談先を厳選してご紹介します。
一部の株式買取業者は、無登録での営業や詐欺的な手法、非弁行為(弁護士でない者が弁護士の業務を行うこと)など違法性が問題視されており、大阪高等裁判所2024年7月12日判決では株式買取業者の行為が非弁行為にあたると判断された判例もあります。また、高額買取をうたって実際は買い叩くケースもあるため、一定のリスクがあることを理解したうえで相談することが重要です。
株式買取に詳しく、M&Aやファイナンス理論の知見があることが重要です。対応実績と交渉力を事前に確認しましょう。
資産税・自社株評価に強い税理士法人か確認。M&Aや法務に対応できる他士業と連携しているかどうかも大切です。
業種や規模に合った買い手ネットワークを持っているかを見極めましょう。成約するまでのスピードもポイントです。