退職時や相続などで非上場株式(未公開株)を取得したものの、「会社に買い取ってもらえず現金化できない」と困っている方は少なくありません。本記事では、非上場株式における会社の買取義務の有無、法的に買い取らせるための具体的な手続き、そして適正な価格で売却するための注意点と専門家の選び方を詳しく解説します。
結論から申し上げますと、会社法において発行会社が株主から「株を買い取ってほしい」と要求された際に、それに応じなければならないという一般的な買取義務は課せられていません。
特に非上場企業の場合、株式を買い取るための十分な余剰資金がないケースも多く、無条件の買取義務を課すと会社財産が不当に流出し、債権者や他の株主の利益を損なう恐れがあるため、法的な強制力は持たされていないのです。
非上場株式は証券取引所で売買できないため、株主自身で買い手を見つける必要があります。さらに、非上場企業の多くは定款で譲渡制限を設けており、株を売るにも会社の承認が必要という高いハードルがあります。
買い手が見つからない一方で、会社も買い取ってくれないという袋小路に陥りやすく、資産としての価値がありながら全く現金化できない塩漬け状態に陥るリスクが高いのが非上場株式の実態です。
原則として買取義務はないものの、以下の特定の条件下においては、会社(または会社が指定する第三者)に買取義務が発生します。
株主が会社に対して「この人に譲渡したいので承認してほしい」と正式に請求し、会社がこれを不承認とした場合、会社は自ら買い取るか、別の指定買取人を立てる義務が生じます。会社が「譲渡は認めないが、自分たちも買い取らない」という態度は許されず、不承認とするのであれば、適正な価格で買い取る相手を会社側が用意しなければならないというルールです(会社法第140条)。
議決権の90%以上を保有する特別支配株主が、他の少数株主に対して「株をすべて売り渡せ(スクイーズアウト)」と請求できる制度です。この請求があった場合、少数株主は拒否することができませんが、その対価として会社または支配株主には、当然ながら株式を買い取る義務が発生します。強制的な排除ではありますが、株主にとっては確実に現金化が行われる場面でもあります。
株式併合などを用いて、少数株主の持ち株を1株未満に調整し、強制的に現金を交付して株主の地位を失わせる手続きが行われる場合です。この際、会社側は端数となった株式を買い取る義務があり、株主は株式を失う代わりに現金を受け取ることになります。適正な対価を支払うことが前提となるため、価格に不満がある場合は、裁判所へ価格決定の申立てを行うなど法的手段を検討することになります。
合併や事業譲渡といった、会社の根幹に関わる大きな組織再編が行われる際、これに反対する株主には、反対株主の株式買取請求権(会社法第469条など)が認められています。自分の意に沿わない経営統合などが進む場合、株主は会社に対して「自分の持っている株を公正な価格で買い取れ」と請求することができ、請求を受けた会社にはその株式を買い取る法的な義務が発生します。
まず、株式譲渡承認請求の前提として、形式上の譲渡相手(買い手候補)を見つける必要があります。実在する個人や法人であれば、親族や知人であっても構いません。この時点では実際に売買を完結させることよりも、会社に対して「譲渡したい相手がいるので、承認するか、さもなくば会社が買い取れ」という正式な通知を出すための法的なステップとして機能します。
次に、会社に対して書面で株式譲渡承認請求を行います。「誰に、何株を、いくらで譲渡したいか」を明記し、もし会社が承認しない場合には、会社または指定買取人が買い取るよう請求します。この請求は、後の言った・言わないを防ぐために、必ず内容証明郵便で行うのが一般的です。会社はこれに対し、2週間以内に回答を出す義務があります。
会社が不承認とし譲渡を認めない場合、会社は不承認通知から一定期間内(通常は40日以内)に、自ら買い取るか指定買取人を決定し、株主に通知しなければなりません。ここから実際の売買価格の交渉へと進み、合意に至れば契約・決済が行われます。
まずは株主と会社(または指定買取人)の間で話し合いを行い、双方が納得できる価格を探ります。しかし、株主は「高く売りたい」、会社は「安く買いたい」という相反する利害関係にあるため、ここでの合意は容易ではありません。特に経営陣との間に感情的な対立がある場合は交渉が難航しやすく、専門家のアドバイスを受けながら冷静に条件を提示していくことが重要です。
協議が一定期間(通常は買取通知から20日以内)まとまらない場合、株主または会社は裁判所に対して、売買価格決定の申立てを行うことができます。この場合、最終的な売買価格は裁判所が公正な価格として決定します。裁判所は専門家の鑑定結果や企業の財務状況を総合的に判断するため、当事者間の恣意的な価格操作を防ぐことができます。
適正な価格を主張するためには、客観的な株価算定が必要です。主な手法として、会社の純資産から計算する「純資産価額方式」、類似した上場企業の株価を参考にする「類似業種比準方式」、過去の配当金をベースにする「配当還元方式」などがあります。
少数株主の場合、配当還元方式が採用されると著しく低い価格になるリスクがあるため、どの方式が適正かを論理的に主張しなければなりません。
会社という法人ではなく、経営権を持つ役員や他の主要株主に個人として買い取ってもらう方法です。会社が自社株を買い取る場合のような財源規制(分配可能額の制限)がないため、当事者間の合意さえあればスムーズに手続きが進みます。会社のキャッシュフローを痛めないため、経営陣との交渉材料として有効な場合があります。
近年、少数株主から株式を直接買い取る専門業者も存在します。ただし、この分野はトラブルも多く、無登録営業による違法な買い叩きを行う悪質な業者も一部存在します。利用を検討する場合は、信頼できる専門家のアドバイスを受けた上で、極めて慎重に判断すべきです。
非上場株式の現金化は、専門家のサポートなしに進めるのは非常に困難です。目的に応じて適切な専門家へ相談しましょう。
会社との交渉を代行し、譲渡承認請求や価格決定申立てといった法的アクションを一手に行えるのが弁護士です。特に紛争性が高い場合や、会社側が不当に低い価格を押し付けてくる場合には、法律の専門家である弁護士の介入が不可欠です。株主としての正当な権利を最大限に守りながら、有利な条件を引き出す交渉が可能になります。
株式売却において避けて通れないのが適正な株価の算出と税金の問題です。税理士・公認会計士は、会社の決算書から客観的な株価を算定するプロであり、譲渡所得税の観点から有利な売却スキームを立案してくれます。裁判所への申立ての際にも、専門家による評価書は強力な根拠資料となります。
発行会社そのものを売却する動きがある場合などに有効です。少数株式単体での仲介は取り扱っていないケースが多いですが、保有比率が高い場合や発行会社の経営状況によっては、戦略的な買い手候補とのマッチングを支援してくれる可能性があります。
A:可能です。ただし、上場株のように証券会社を通じて即座に売却することはできません。発行会社との直接交渉、他の株主への譲渡、あるいは専門業者への売却といった相対取引が基本となります。譲渡制限が設定されている場合は、会社からの承認を得るという手続き上のステップを越える必要があります。
A:裁判所への価格決定申立て等の法的な手続きを行わずに交渉が完全に決裂した場合、株式はあなたの手元に残ったままになります(塩漬け状態)。配当金があれば受け取れる可能性はありますが、投下した資本を現金として回収することはできません。そのため、適切なタイミングで専門家を交えた法的手段を検討することが重要です。
A:売却によって利益が出た場合、基本的には申告分離課税の対象となり、約20%(所得税15.315%+住民税5%)の税金がかかります。非上場株式の場合、売却益の計算には取得費の確認など複雑な作業が伴うため、確定申告にあたっては税理士への相談をおすすめします。
非上場株式の売却は、法律・税務・交渉力の三要素が絡み合う極めて専門性の高い分野です。個人で会社側に立ち向かっても、「買い取る義務はない」の一点張りで門前払いされたり、不利な価格を提示されたりするのが実情です。
弁護士や税理士などの専門家を介することで、会社側も法的なリスクを認識し、対等な交渉のテーブルにつくようになります。大切な資産を適切な価格で現金化するためには、初期段階から専門家のアドバイスを受け、戦略的なアクションを起こすことが成功への近道です。
非上場株式の取引は、上場株と違い法的手続きや税務対応が複雑なため、専門家への相談が不可欠です。
ここでは、弁護士・税理士・M&A仲介会社の中から、目的別に信頼できる3つの相談先を厳選してご紹介します。
一部の株式買取業者は、無登録での営業や詐欺的な手法、非弁行為(弁護士でない者が弁護士の業務を行うこと)など違法性が問題視されており、大阪高等裁判所2024年7月12日判決では株式買取業者の行為が非弁行為にあたると判断された判例もあります。また、高額買取をうたって実際は買い叩くケースもあるため、一定のリスクがあることを理解したうえで相談することが重要です。
株式買取に詳しく、M&Aやファイナンス理論の知見があることが重要です。対応実績と交渉力を事前に確認しましょう。
資産税・自社株評価に強い税理士法人か確認。M&Aや法務に対応できる他士業と連携しているかどうかも大切です。
業種や規模に合った買い手ネットワークを持っているかを見極めましょう。成約するまでのスピードもポイントです。